2007年蛾類学会総会・研究発表会
1月28日に大阪で開催された蛾類学会総会・研究発表会(蛾類学会トピックス参照)のレポートです.
ダイジェスト版が学会の方でも流れますが,先行して公開.
プレ懇親会という名前の飲み会に参加するため,前日から大阪入り.当日はギリギリまで部屋で発表の調整をしていて,受付に「はよ来い」と催促される.三々五々集まり,開始時には席の大半が埋まる盛会になった.
総会に引き続いて研究発表会へ.午前の部は一般講演を2題.
大和田守「何回調査をすれば1地域の蛾類相は解明されるか」
皇居を中心とした都心緑地での徹底した生息調査のデータをもとに,蛾類相の把握の難しさについて講演.ライトやっても本当に数が飛んでこないんですよ.
堀江清史・矢野高広「ベニモンマダラZygaena niphonaの現状調査中間報告」
ベニモンマダラといえば草原性美麗マダラガの代名詞.本種は広い草原の蛾のイメージだが,ここ2年間の調査状況によれば.人工的な荒地や河川敷など不安定な小規模草地で見られるケースが多いそうだ.今年狙いたい人,そういうことだそうですよ(で,採れたら情報くださいな).
午後は特別講演と一般講演8題.
特別講演 松浦秀明「植物検疫で見つかったミズメイガ」
最近急激に輸入量が増えている水草類から発見された主に東南アジア産のミズメイガの形態・生活史・および発見状況について.シンガポールで栽培されているあちこちが原産の水草に在来のミズメイガがついてくるそうで.
一般講演に戻り,怒涛のヒロズコガ三連発.
黄 国華・広渡俊哉・王 敏「中国華南地区のヒロズコガ相(鱗翅目,ヒロズコガ科)」
中国南部のヒロズコガ相の総括.
那須義次・村濱史郎・坂井 誠・山内健生「鳥類の巣・ペリットおよび肉食哺乳類の糞から発生したヒロズコガ」
これまで知見の少なかったこれらの餌資源から,ヒロズコガ亜科の発生を認めた.イガのような屋内害虫の野外での発生源としても重要ではないかとのこと.
坂井 誠「日本産ヒロズコガ科の分類・生態の諸問題」
進展が期待される日本産のヒロズコガ科の分類学的研究に関するいくつかの話題.日本には100種以上が分布するらしいですな.あとはご本人のサイトに情報があったり.
さらにミクロが続く.
間野隆裕・吉安 裕・樫木寿一「ハマグルマ属(キク科)を摂食する日本から未知のトリバガ」
海浜性のキクであるハマグルマから発見されたトリバガの生活史・生息環境および形態について.ハマグルマ自体がRDB種なので,調査も今のうちじゃないとできないかも.
水川瞳・広渡俊哉・橋本里志「カバノキ科植物を寄主とする日本産スイコバネガ」
おもに本州中部のスイコバネガ相をまとめ,系統と食餌植物との関係を論じた.この仲間は飼育が難しいから幼虫の調査も大変.
ここからようやく大きな蛾.
神保宇嗣・佐藤力夫・金子岳夫・伊藤元己「フトフタオビエダシャクの食性2型の再検討:DNAバーコーディングの一活用例」
DNAを利用した同定支援手法であるDNAバーコーディングについて紹介.今度詳しく書くが,フトフタオビはやっぱり2種のようです.
岸田泰則「ホシベニシタヒトリは九州、四国にいるか?」
本種の四国と九州からの記録を再検討し,四国には分布するが,九州からの記録は疑問があるという.図鑑で「本州・四国・九州に産する」と書いてあれば,普通種と思って産出状況に疑問を持つことは少ない.きちんと採集情報をまとめて,それに基づいて再度分布を考えないといけないという主張は重要だと思う.
最後はちょっと変わったミクロ.
駒井古実「マングローブに適応したCentroxena属(ハマキガ科,ヒメハマキガ亜科)について」
マングローブ林でも海岸に近い場所に生えるマヤプシキ(ハマザクロ)の実に潜るハマキガの生活史・形態とマングローブ林への適応について.実の中で蛹になるときに二重の繭を作って,海水からガードしているのは面白い.
大阪の総会は毎回ミクロの発表が多くて,その傾向は今回も続いているのだが,ヒロズコガが3題というのは前代未聞でなかなかインパクトがあった.マクロはもういわゆるびっくりするような新種発見は少ないが,地道な生態分布調査やDNAの利用など,視点を変えればまだまだやれることがあることをアピールできたと思う.
