MothBlog+ Archives [蛾]

オオミズアオの学名変更:ミステリアスなアルテミス

K先生よりオオミズアオの分類学的問題を扱った論文を頂いた。原文はロシア語なので抄録しか読んでいないが、今までオオミズアオに用いられてきたActias artemisのタイプ標本を検討したところ、むしろオナガミズアオに近縁な別種だったとのこと。そのためオオミズアオの学名としては、日本から記載され、A. artemisのシノニムとされてきたA. alienaが復活する。肝心のA. artemisの正体は他のオナガミズアオ群と再比較しないとわからないらしい。Actias属はポピュラーなグループだが台湾や中国南部の個体群にも色々問題が残っており一筋縄ではいかない。だいたい、オオミズアオとオナガミズアオですら、外見で区別することがしばしばあるくらいだし。

2007-12-30 4:25 PM | |

備忘録:イスラエルの蛾の本

たくさん出るなあ。
Gershenson, Z.S., Pavlicek, T., Kravchenko, V., Nevo, E. 2006. Yponomeutoid Moths (Lepidoptera: Yponomeutidae, Plutellidae, Argyresthiidae) of Israel. Pensoft Series Faunistica 58, ISSN 1312-0174. ISBN 9546422746, Pensoft Publishers, Sofia-Moscow, 165×240, b/w drawings, photos, maps, identification keys, bibliography, index. In English. Hardcover, 200pp. EURO 60.00
Kravchenko, V.D., Fibiger, M., Hausmann, A., Muller., GC. 2007. The Lepidoptera of Israel. Volume I: Erebidae. Pensoft Series Faunistica 62, ISSN 1312-0174. ISBN 9546422878, Pensoft Publishers, Sofia-Moscow, ISBN-13: 978-954-642-287-3, 290×210, color photos, maps, 35 color plates with habitats, 16 color plates with moth species, bibliography, index. In English. Hardcover, 168pp. EURO 78.00
Kravchenko, V.D., Fibiger, M., Hausmann, A., Muller, G.C. 2007. The Lepidoptera of Israel. Volume II: Noctuidae. Pensoft Series Faunistica 63, ISSN 1312-0174. ISBN 9546422886, Pensoft Publishers, Sofia-Moscow, ISBN-13: 978-954-642-288-0, 290×210, 54 color plates with moth species, bibliography, index. In English. Hardcover, 400pp. EURO 135.00. Publication date: April, 2007

2007-2-27 1:01 AM | |

問題だらけの北隆館の原色昆虫大図鑑改訂版

週末は東北の蛾屋の集まり「みちのく会」に出席して、久しぶりの面々と蛾談義をやってきた。その席にニワカガマニアさんが北隆館の図鑑を持ってきてくれたのだが、皆でパラパラめくって絶句してしまった。蝶の部分は全面改定されているようだが、蛾の部分は非常に問題だらけだったからだ。北隆館のサイトには、「蛾類についても学名・分布を中心に内容を全面的に見直しています。」とあるが、中途半端に手を入れてとんでもないことになっていた。たとえばシャクガだと:
・マダラエダシャクの仲間は前の版ではCalopilos属とされてきたが、現在ではAbraxas属に統合されている。したがってCalopilos属とされているものは全種Abraxas属にすべきなのに、一部の種だけが修正されて二つの属名が併記されている。おまけに現在はユウマダラエダシャクの同種とされているホソユウマダラエダシャクがまだ独立種として扱われている。
・フトフタオビエダシャクの学名は、現在妥当とされるEctropis crepusculariaにしてあるが、この種は北米にも分布しているのに抜けており、分布をきちんと見直したとは思いがたい。
などなど。
小蛾類に至っては、もはや目も当てられない惨状。私の専門のカクモンハマキガ族では、細かく見てないが半分くらいは学名や和名が現在の一般的なものになっていなかった(謝辞に私の名前を見つけたが、私自身はノータッチ)。さらには、ホソバヒメハマキになぜかホソハマキの仲間の学名がつけられているなどなど混乱の火種がたくさん。こんな状態の種名をもとに目録などを作られたら、どれだけの混乱が生じるか、考えるだけで恐ろしい。
さらには、ハマキの項にある「小蛾類の脈相(1)」を見ると、Tortrix属の頭文字が小文字になっている誤植がそのままだったりと、単純な誤記すらそのままになっていたり、本当に編集したのかどうかも疑問が残る仕上がりだ。
前回「これから図鑑を買いたい方にとっては選択肢の一つかもしれない。」と希望的観測を書いたが、撤回せざるを得ない。正直、私も買う気が全くなくなってしまった。

2007-2-25 11:50 PM | |

北隆館の大図鑑の改訂版蝶蛾編

うわさは聞いていたのだがもう出るのですな。もうすぐ出版から半世紀経つ図鑑の改訂版です。
私が蛾を始めたときにはもう講談社の蛾類大図鑑が出ていたので、私自身はあまりお世話になっていないが、一世代前の蛾屋さんにとっては北隆館の大図鑑がバイブルだったわけで、やはり偉大な存在だ。話をしていると、北隆館の図鑑の配列になれた人間は講談社の図鑑で見たい種が探せなくてねーと苦笑されることもよくあった。講談社より安いし、そもそも講談社の大図鑑はほぼ完売のようだから、これから図鑑を買いたい方にとっては選択肢の一つかもしれない。2007.2.25 この希望的観測は撤回いたします
ただ、執筆者を見ると蝶の若手から中堅の研究者がズラリ。蝶の内容は刷新されていそうだが、正直、蛾のほうは内容はあまり変わってないではないか。怖いもの見たさで覗いてみたいような。

2007-2-2 1:18 AM | |

2007年蛾類学会総会・研究発表会

1月28日に大阪で開催された蛾類学会総会・研究発表会(蛾類学会トピックス参照)のレポートです.
ダイジェスト版が学会の方でも流れますが,先行して公開.
プレ懇親会という名前の飲み会に参加するため,前日から大阪入り.当日はギリギリまで部屋で発表の調整をしていて,受付に「はよ来い」と催促される.三々五々集まり,開始時には席の大半が埋まる盛会になった.
総会に引き続いて研究発表会へ.午前の部は一般講演を2題.
大和田守「何回調査をすれば1地域の蛾類相は解明されるか」
皇居を中心とした都心緑地での徹底した生息調査のデータをもとに,蛾類相の把握の難しさについて講演.ライトやっても本当に数が飛んでこないんですよ.
堀江清史・矢野高広「ベニモンマダラZygaena niphonaの現状調査中間報告」
ベニモンマダラといえば草原性美麗マダラガの代名詞.本種は広い草原の蛾のイメージだが,ここ2年間の調査状況によれば.人工的な荒地や河川敷など不安定な小規模草地で見られるケースが多いそうだ.今年狙いたい人,そういうことだそうですよ(で,採れたら情報くださいな).
午後は特別講演と一般講演8題.
特別講演 松浦秀明「植物検疫で見つかったミズメイガ」
最近急激に輸入量が増えている水草類から発見された主に東南アジア産のミズメイガの形態・生活史・および発見状況について.シンガポールで栽培されているあちこちが原産の水草に在来のミズメイガがついてくるそうで.
一般講演に戻り,怒涛のヒロズコガ三連発.
黄 国華・広渡俊哉・王 敏「中国華南地区のヒロズコガ相(鱗翅目,ヒロズコガ科)」
中国南部のヒロズコガ相の総括.
那須義次・村濱史郎・坂井 誠・山内健生「鳥類の巣・ペリットおよび肉食哺乳類の糞から発生したヒロズコガ」
これまで知見の少なかったこれらの餌資源から,ヒロズコガ亜科の発生を認めた.イガのような屋内害虫の野外での発生源としても重要ではないかとのこと.
坂井 誠「日本産ヒロズコガ科の分類・生態の諸問題」
進展が期待される日本産のヒロズコガ科の分類学的研究に関するいくつかの話題.日本には100種以上が分布するらしいですな.あとはご本人のサイトに情報があったり.
さらにミクロが続く.
間野隆裕・吉安 裕・樫木寿一「ハマグルマ属(キク科)を摂食する日本から未知のトリバガ」
海浜性のキクであるハマグルマから発見されたトリバガの生活史・生息環境および形態について.ハマグルマ自体がRDB種なので,調査も今のうちじゃないとできないかも.
水川瞳・広渡俊哉・橋本里志「カバノキ科植物を寄主とする日本産スイコバネガ」
おもに本州中部のスイコバネガ相をまとめ,系統と食餌植物との関係を論じた.この仲間は飼育が難しいから幼虫の調査も大変.
ここからようやく大きな蛾.
神保宇嗣・佐藤力夫・金子岳夫・伊藤元己「フトフタオビエダシャクの食性2型の再検討:DNAバーコーディングの一活用例」
DNAを利用した同定支援手法であるDNAバーコーディングについて紹介.今度詳しく書くが,フトフタオビはやっぱり2種のようです.
岸田泰則「ホシベニシタヒトリは九州、四国にいるか?」
本種の四国と九州からの記録を再検討し,四国には分布するが,九州からの記録は疑問があるという.図鑑で「本州・四国・九州に産する」と書いてあれば,普通種と思って産出状況に疑問を持つことは少ない.きちんと採集情報をまとめて,それに基づいて再度分布を考えないといけないという主張は重要だと思う.
最後はちょっと変わったミクロ.
駒井古実「マングローブに適応したCentroxena属(ハマキガ科,ヒメハマキガ亜科)について」
マングローブ林でも海岸に近い場所に生えるマヤプシキ(ハマザクロ)の実に潜るハマキガの生活史・形態とマングローブ林への適応について.実の中で蛹になるときに二重の繭を作って,海水からガードしているのは面白い.
大阪の総会は毎回ミクロの発表が多くて,その傾向は今回も続いているのだが,ヒロズコガが3題というのは前代未聞でなかなかインパクトがあった.マクロはもういわゆるびっくりするような新種発見は少ないが,地道な生態分布調査やDNAの利用など,視点を変えればまだまだやれることがあることをアピールできたと思う.

2007-1-30 1:02 AM | |